「人的資本経営」という言葉を耳にするようになりました。人的資本経営とは人材を重要な資産と捉えてその価値を最大限に引き出すための経営戦略を指します。これまでの人材戦略とは何が違うのでしょうか?
今回は人的資本経営についてわかりやすく解説します。この記事を読めば、人的資本経営の取り組み方がわかるようになるため、ぜひ参考にしてみてください。
目次
人的資本経営とは
人的資本経営とは、人材を資本として捉えて価値を最大限に引き出すことで、中長期的に事業成長していく経営の在り方です。人材を重要な資産と捉えて、従業員の「知識」「スキル」「経験」「能力」を引き出していきます。
人的資本経営と従来の人材戦略の違い
企業がこれまで取り組んできた人材戦略と人的資本経営は「人材に対する考え方」と「アプローチ方法」が違います。
従来の人材戦略では、人材を「資源」と捉えて人件費削減の傾向がありました。そのため、人材を効率良く活用することが重視されていたのです。画一的な基準で、人材管理や人材育成を行っていました。
一方で、人的資本経営では、人材を「資本」と捉えて積極的に投資していき、従業員が能力を最大限に引き出せることを目指します。
人的資本経営が注目されている理由
人的資本経営が注目されている理由は4つあります。
ビジネスのグローバル化を実現するため
ビジネスのグローバル化を実現するためには、多様な文化や価値観を持つ人材を雇用する必要があります。
多様な人材を集めることでイノベーションを促進し、新たなビジネス機会が得られるようになります。
しかし、多様な人材を上手く活用するためには、従来の人材管理や人材育成では不十分です。なぜなら、1人1人の能力を最大限に引き出すことが大切になるためです。つまり、グローバル化を実現するためには人的資本経営に取り組む必要があります。
人材版伊藤レポートで取り上げられたため
経済産業省「人材版伊藤レポート」で、日本企業の生産性が低い理由は人材への投資不足が指摘されました。
レポート内には、人材への投資がイノベーションを促進し、企業の生産性を向上させる上で重要な役割を果たすことが書かれています。
このレポートは、日本企業の人材に関する意識を大きく変えるきっかけとなりました。
企業は、人材をコストと考えるのではなく、最も重要な資産と捉え直すようになったのです。人材版伊藤レポートは話題を集め、人的資本経営が注目されるようになりました。
DX時代が到来したため
DX時代の到来により、従業員に求められるスキルが大きく変化してきています。
ルーティンワークはITで自動化できるようになったため、従業員は「創造力」「問題解決能力」「デジタルスキル」を磨き高度な業務に携わらなければなりません。
従業員のデジタルスキルが不足している企業では、リスキリングの研修プログラムが導入されています。
従業員を教育して組織全体のポテンシャルを向上させることがDXを成功させるための鍵とも言われています。
DXと人的資本経営は相互に補完し合う関係であることから、DX時代に人的資本経営が注目を浴びるようになりました。
多様な働き方が浸透してきた
テレワーク、フレックスタイムなど多様な働き方が広がることで、より柔軟に働けるようになりました。
従業員が希望するライフスタイルに合わせて働き方を選択できれば仕事の満足度が上がり、意欲的に働いてもらえるようになります。その結果、生産性向上も見込むことができるのです。
従業員の多様性を尊重し、一人ひとりの能力を最大限に引き出すことが、企業の競争力向上に繋がるとも言われて人的資本経営が注目されるようになりました。
投資家から情報開示が要請され始めたため
人的資本経営は、ESGの側面に深く関連しており、企業の持続可能性を評価する上で重要な指標の一つとされています。そのため、投資家は企業の財務状況だけでなく、非財務情報(人的資本に関する情報)にも注目するようになりました。
2023年3月31日以降、投資家と企業との対話を建設的なものにするため、人的資本の情報開示が義務化されました。
投資家にどのような取り組みをしているか説明するために、人的資本経営に取り組む企業が増えてきました。
企業に求められる人的資本経営に関する開示情報
人的資本の情報開示が義務化されて3つの領域に関する情報が求められるようになりました。
サステナビリティに関する情報
・人材育成
新卒・中途採用、研修プログラム、キャリアパスなど、人材育成に関する取り組みなど
・従業員エンゲージメント
従業員の満足度、離職率、従業員の声への対応など
・ダイバーシティ&インクルージョン
性別、年齢、国籍など、多様な人材の採用と活躍促進に関する取り組みなど
人的資本・多様性に関する情報
・人的資本
従業員のスキル、経験、資格に関する情報など
・多様性
性別、年齢、国籍、障害など、従業員の多様性に関する情報など
・流動性
入社・退社、異動など、人材の流動性に関する情報など
コーポレートガバナンスに関する情報
・労働条件
労働時間、労働環境、労働組合との関係など、労働条件に関する情報など
・コンプライアンス
法令遵守、倫理規範など、コンプライアンスに関する情報など
人的資本経営のメリット
人的資本経営のメリットは6つあります。
生産性が向上する
人的資本経営に取り組めば、生産性を向上できます。なぜなら、従業員1人1人のスキルアップを支援することで、個々の能力が最大限に発揮できるようになるためです。
従業員自身が成長を時間できれば、仕事に対するモチベーションが上がり自主的に行動するようになり、生産性が向上します。
イノベーションを促進できる
人的資本経営に取り組むことで、イノベーションを促進し、新たな製品・サービスを生み出せるようになります。なぜなら、多様な価値観を尊重することで、従業員が積極的にアイデアを出せるようになるためです。
異なる背景を持つ人材が集まることで、独創的なアイデアが生まれやすくなります。
従業員の定着率を上げられる
人的資本経営に取り組めば、従業員の定着率を上げられます。なぜなら、従業員一人ひとりの成長を支援しキャリア開発の機会を提供することで、従業員満足度を高められるためです。
企業への愛着を深めることで、長く働いてもらえるようになります。
企業価値を向上できる
人的資本経営に取り組めば、企業価値を向上できます。なぜなら、従業員の能力を最大限に引き出すと同時に企業価値も向上するためです。
企業が持続的な成長を遂げるためには、人材を最も重要な資産と捉え人的資本経営を積極的に推進していくことが大切となります。また、従業員が企業に対して愛着を抱けば、良い評判が増えていきビジネスチャンスを得られやすくなります。
優秀な人材を獲得しやすくなる
人的資本経営に取り組むことで、優秀な人材を獲得しやすくなります。なぜなら、人材への投資を積極的に行い、従業員の成長を支援していることに好感を持ってもらえるためです。
優秀な人材を獲得しやすくなります。また従業員に協力してもらうことで、リファラル採用もしやすくなります。
資金調達しやすくなる
人的資本経営に取り組めば、従来より容易に資金調達を行えるようになります。なぜなら、投資家から高い評価を受け、有利な条件を提示される可能性が高まるためです。
人材への投資を通じて、企業の魅力度を高めて、投資家からの信頼を獲得することで資金調達のハードルを下げられます。
人的資本経営の流れ
従業員1人1人の能力を最大限に引き出し、組織力を高める人的資本経営は3TEPで取り組めます。
- 経営戦略と連動する人材戦略を策定する
- KPIと施策を検討する
- 施策を実行して効果検証・改善を行う
ここでは、各手順について解説します。
経営戦略と連動する人材戦略を策定する
まず、経営戦略と人材戦略を連携させます。企業が目指す「ビジョン」「ミッション」「バリュー」などを明確にした上で必要な人材像を描きましょう。
次に、現在の従業員のスキルや能力を洗い出して、現状分析して必要な人材とのギャップを明らかにします。その上で「人材育成」「人材採用」「人事評価」など具体的な施策を盛り込んだ人材戦略を策定します。
KPIと施策を検討する
次に具体的な目標を設定しましょう。目標達成の度合いを測定するための指標(KPI)を設定することが大切です。
「従業員満足度」「離職率」「生産性」「売上高」などの人材戦略の成果を測る指標を設定します。そして、目標達成のためにどのような施策を行うかを検討します。
施策を実行して効果検証、改善を行う
人材戦略の施策を実行したら、定期的に効果を検証しましょう。PDCAサイクルを回し、継続的に改善していきます。
効果検証や改善は経験や勘で行うのではなくデータを活用しましょう。また、従業員からフィードバックを収集して改善に活かすことも重要です。
人的資本経営の施策
経営戦略と人材戦略を連携させた上で考えていく必要はありますが、どのような施策があるかを確認しておきましょう。
人材ポートフォリオの作成
企業を取り巻く環境や経営戦略の変化に合わせて人材配置や人材育成を行えるように、従業員の「知識」「スキル」「経験」「キャリア」をデータベース化しておきましょう。
中長期的な視点で、企業が求める人材像を明確にしておき、必要なスキルや経験を特定した上で教育プログラムを計画することで企業価値を高められます。
ダイバーシティ&インクルージョン
ダイバーシティ&インクルージョンとは、多様生を受け入れる考え方をいいます。さまざまなバックグラウンドを持つ人材が集まることで、新しいアイデアや視点が生まれ、イノベーションが生まれやすくなります。
多様な角度からアプローチできるようになるため、複雑な問題も解決することが可能です。このような効果が見込めるため、多様な人材を積極的に採用していきましょう。
リスキリング
リスキリングとは、ビジネス環境の変化に対応するために、従業員に新しい知識・スキルを習得してもらうことをいいます。
DX推進でルーティンワークが自動化できるようになり、従業員に新しい能力を身に付けてもらい、より高いレベルで活躍してもらう必要性が出てきました。
人的資本の情報開示では、どのような教育をしているかも問われるため、リスキリングに取り組むようにしましょう。
従業員エンゲージメントの向上
従業員エンゲージメントとは、従業員の仕事に対する意欲や会社に対する愛着心を育てることをいいます。
従業員エンゲージメントを高めれば、従業員が主体的に動いてくれて生産性が向上します。
従業員エンゲージメントを向上させる方法について詳しく知りたい方は、下記の記事をご覧ください。
関連記事:『従業員エンゲージメントとは?組織に見込める効果と高め方を解説』
多様な働き方の採用
時間や場所にとらわれない働き方とは、従来のオフィスでの勤務時間や場所にとらわれず、自分のライフスタイルや仕事の内容に合わせて柔軟な働き方をすることを指します。
働き方を選択できることで、ワークライフバランスが改善し、仕事に対する満足度を高められます。
どのような働き方があるのか詳しく知りたい方は、下記の記事をご覧ください。
関連記事:『多様な働き方の種類を一覧表でまとめて紹介[雇用制度や雇用形態]』
まとめ
人的資本経営とは、人材を資本として捉えて価値を最大限に引き出すことで、中長期的に事業成長していく経営の在り方です。
人的資本経営に取り組めば従業員満足度が上がり、生産性を高められ、投資家から資金調達もしやすくなります。上場企業では人的資本の情報開示が義務化されるなど注目を浴びているため、これを機会に取り組んでみてください。
いっとでは、社外メンターサービスやアルムナイ採用サービスを提供しているため、ご利用して頂ければ幸いです。