新型コロナウイルス感染拡大の影響でテレワークを導入した結果、お互いの状況が分からず、業務が属人化してしまい、人事評価がしづらくなったと悩む方がいます。
このような悩みを解決する方法として、メンバーシップ雇用からジョブ型雇用に切り替えるという選択肢がありますが、切り替えた方が良いのでしょうか?
今回はジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用を比較しながら、テレワークでは、どちらの雇用制度が良いのか解説していきます。
目次
◆ ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用を比較
ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用を比較すると「職務内容」「報酬」「労働時間」「教育」「流動性」で違いがあります。
◆ ジョブ型雇用とは
ジョブ型雇用とは、職務内容を記述した書類(=職務記述書)に基づいて人材を採用する制度です。書類には「職務内容」「責任範囲」「成果報酬」「必要なスキル」「勤務時間」「勤務場所」が明確に定められています。
これらの職務記述書に該当するスペシャリストの人材を雇用します。そのため、基本的に別部署への異動、昇格・降格はありません。
世界ではスタンダードな雇用制度ですが、メンバーシップ型雇用制度を採用していた日本企業には馴染みがなく、近年注目を浴びている制度です。
・ メリット
職務記述書に基づいて人材を採用するジョブ型雇用には、以下のようなメリットがあります。
[企業側のメリット]
- 高いスキルや技術力を持った優秀な人材が採用できる
- 職務記述書の内容に沿って正当に評価できる
- テレワークの人事評価がしやすくなる
- 専門性の高い人材を育成しやすくなる
[従業員側のメリット]
- 専門分野に携われてキャリアを磨ける
- 成果に対して正当に評価してくれるため満足しやすい
- 成果を出せば、育児や介護と仕事が両立できる
テレワークが普及して業務プロセスや勤務態度が分かりづらくなったり、日本経済団体連合会がジョブ型雇用の導入を推奨したりしたため、ジョブ型雇用を採用し始める企業が増えてきました。
・ デメリット
ジョブ型雇用には、以下のようなデメリットがあるため注意してください。
[企業側のデメリット]
- 他社より条件が悪ければ転職されてしまう恐れがある
- 他部門で人手不足に陥っても異動させられない
- 評価項目を見直すための工数が必要になる
- 職務に人を当てるため、協調性など帰属意識が失われやすい
- 専門職の業務を確保し続けなければいけない
[従業員側のデメリット]
- 自分でスキルアップをしなければいけない
- 何かの理由で業務が失われた場合は失業してしまう
- 仕事で成果を出さなければ薄給になる恐れがある
日本では解雇権濫用の法理があり、採用した人材は簡単に解雇しにくくなっています。そのため、専門分野の仕事が安定的にある大手企業を中心にジョブ型雇用が採用されている現状です。解雇権濫用の法理で、中小企業はジョブ型雇用を採用しづらくなっています。
・ 導入事例
出典元:『KDDI株式会社』
KDDI株式会社のジョブ型雇用制度の導入方法は「HR Transformation (HRX) of The Year 2022」で最優秀賞を獲得するなど高く評価されています。KDDI株式会社は、従業員に自律的なキャリア形成を促し支援する独自の取り組み方が特徴です。
従業員は上司と1o1を実施して、業務上で経験した「成功」「失敗」「悩み」を相談しながら、どのように今後のキャリア形成していくかを伴走していきます。
新入社員に対しては、組織全体の情報を提供してどのような仕事があるかを伝え、一緒にキャリアを考えていきます。その後に、自分が築いていきたいキャリアに応募するという流れです。終身雇用制度が崩壊している時代で、自分のキャリアをシッカリ築ける会社だと満足されています。
◆ メンバーシップ型雇用とは
メンバーシップ型雇用は職務や勤務地などを限定せずに雇用形態を締結する制度です。総合職として雇用して、ジョブローテーションを繰り返しながら人材を育成します。人材採用する上では、相手の人間性やポテンシャルを重視します。
従業員を定年まで雇用する終身雇用制度や、年齢や勤続年数に応じて役職や賃金を上げる年功序列制度を前提とした制度です。国内では慣れ親しんでいる雇用制度で、多くの企業がメンバーシップ型雇用制度を導入しています。
・ メリット
職務や勤務地などを限定せずに雇用するメンバーシップ型雇用には、以下のようなメリットがあります。
[企業側のメリット]
- 会社の経営方針や状況に応じて人材配置の転換ができる
- 長く働いてもらえるためチームワークが強化できる
- 計画的に人材を育成できる
- 新入社員の採用など一括採用でコストが抑えられる
[従業員側のメリット]
- 終身雇用制度や年功序列制度を前提としているため解雇されにくい
- 会社側が人材教育のためにOJTや研修を用意してくれる
- 職務が合わなければ配置転換などお願いできる
- 職務だけでなく、勤務態度や成長を踏まえて評価してもらえる
メンバーシップ型は人材に職務を当てていくため長期間、会社で働いてもらえます。会社全体の業務を把握している従業員を育成できるため、業務量が多い現場に人を投下できて、組織一体感が生まれます。
・ デメリット
メンバーシップ型雇用には、以下のようなデメリットがあるため注意してください。
[企業側のデメリット]
- 会社の状況などを考慮して育成するためスペシャリストが育ちにくい
- 勤務態度や成長などを踏まえて評価するためテレワークに向かない
- 年齢や勤続年数が重なるほど賃金が上がるため、将来的に人件費が嵩む
[従業員側のデメリット]
- 理想のキャリアが描きにくい
- 会社の都合で条件が変更される恐れがある
- 年功序列制度がある場合は若手が給与に不満を持ちやすい
メンバーシップ型雇用は職務だけでなく、勤務態度や成長を踏まえて評価します。しかし、テレワークだと、これらの評価内容がブラックボックス化してしまいます。その結果、テレワークでメンバーシップ型雇用だと正しく人事評価ができないとして、ジョブ型雇用が注目を浴びてきました。
・ 導入事例
出典元:『トヨタ自動車株式会社』
メンバーシップ型雇用を長年採用し続けているとして有名なのが、トヨタ自動車株式会社です。同社は、メンバーシップ型で人材を採用して、以下のような取り組みで従業員がキャリアを築けるように支援しています。
- 自己申告制度:将来像に向けた必要な経験と能力を申告できる
- ローテーション:従業員の希望を踏まえて部門内外の業務を担当できる
- 評価とフィードバック:年度に決めた目標を達成できたか振り返る
- 職場先輩制度:配属3年目まで先輩社員が面倒を見てくれる
- 特別研修:配属3年目まで研修プログラムが用意されている
- 就業派遣:海外事業体や国内関係先への研修派遣でスキルを身に付ける
- チャレンジキャリア支援:社外で活躍する機会を与えてもらえる
このような制度を整備して、メンバーシップ型雇用でも、従業員が満足して働ける環境を整備しています。
◆ ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用に関する質問
最後にジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用に関する質問をご紹介します。
・ Q.ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用はどちらが良いですか?
ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用のどちらが良いかは一概には言えません。企業側はスペシャリストが採用できて、従業員側は好きなキャリアを磨けるジョブ型雇用は好意的に見られる傾向があります。
しかし、成果を出せず非正社員と同等の扱いを受けているという従業員も多いです。欧米の企業の場合は、成果が出せない人材は解雇されますが、日本の企業は雇用した人材を安易に解雇できません。そのため、ジョブ型雇用で採用した人材が社内で存在が浮いてしまうなどの問題が出てしまう恐れがあります。
ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用のどちらが良いのか気になった際には、取り組んでみてから効果検証することをおすすめします。
・ Q.テレワーク環境下でメンバーシップ型雇用はできますか?
テレワークを導入しても、従来通りのメンバーシップ型雇用は実現できます。メンバーシップ型を雇用したい場合は、以下のようなデジタルツールを活用して、コミュニケーション活性化と業務の可視化をしましょう。
- 仮想オフィス:各メンバーのステータス(声かけOKなど)を表示する
- 作業ログ取得ツール:PC上で作業したログを取得する
- タスク管理ツール:組織全体のプロジェクトの流れを可視化する
- 勤怠管理システム:勤怠情報を取得する
コミュニケーションの活性化と業務の可視化ができれば、テレワーク環境下でもメンバーシップ雇用で運用できます。
・ Q.ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用は併用できますか?
企業の中には、ジェネラリストの人材をメンバーシップ型雇用して、スペシャリストの人材をジョブ型雇用するところも存在します。
しかし、ジョブ型雇用は職務記述書に基づいた職務しか基本的に与えません。一方で、ジェネラリストは幅広い業務が与えられます。そのような不公平感が出ないように気をつけなければいけません。
このような懸念点があるため、スペシャリストを業務委託する企業も多いです。
◆ まとめ
ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用のどちらを採用すべきかは、新型コロナウイルス感染拡大でテレワークが普及して話題を集めました。結論から説明すると、従業員の仕事に対する価値観などによって、どちらが良いかが変わります。そのため、従業員にアンケート調査をして、ジョブ型雇用に好意的かどうかを参考にしてみても良いでしょう。
しかし、ジョブ型雇用に切り替える前に、それぞれの特徴を把握しておくことが大切です。この記事を参考にしながら、どちらの雇用制度が良いかを検討してみてください。