仕事で性差別をするつもりはなくても、「事務職は女性にお任せしよう」「力仕事は男性にお任せしよう」という慣習が根付いているケースがあります。このような職場における性差別を失くすための取り組みが「ポジティブアクション」です。
ポジティブアクションを推進すると、どのようなメリットがあるのでしょうか?どのように取り組めば良いのでしょうか?今回はポジティブアクションついて詳しく解説します。
目次
◆ポジティブアクションとは
ポジティブアクションとは、会社組織の役割分担で差別をなくすことをいいます。
「女性社員が事務手続きをする」「男性社員が部門長としてメンバーを統括する」など固定観念を払拭して、誰でも活躍できる職場を作ることをいいます。
日本は他国と比較して、育児と仕事の両立ができている女性の割合が少ないです。また、女性管理職の数も他国と比較して少ないです。このような問題を抱えているため、女性が活躍できる職場づくりの措置を「ポジティブアクション」と呼んでいます。
◆ポジティブアクションのメリット
企業がポジティブアクションに取り組むと、次のようなメリットがあります。
・労働者不足の問題が解決できる
出典元:『共同参画』
日本の労働者不足は深刻な問題となっており、パーソル総合研究所『労働市場の未来推計 2030』では、2030年には644万人の人手不足に陥ると述べられています。したがって、人材採用を行っても人材が獲得しにくくなってしまうのです。このような労働者不足の問題は、出産や育児で離職する女性を採用することで解決できます。
男女共同参画局『共同参画』によると、第1子出産前後の女性の継続就業率は46.9%と高い数値を記録しています。出産前後に周囲がサポートし、復職できる職場を作れば、人手不足の問題を抱えずに済むのです。
・多様性・公平性に満ちた職場を作れる
日本企業の中には、性別による役割分担を行う慣習が根付いています。例えば、事務手続きは女性に任せる、重労働は男性に任せるなどのシーンを見たことがある方もいるでしょう。
このような役割分担を行う慣習が「女性は努力しても管理職になれないのではないだろうか?」「スキルを磨いても専門職で活躍できないのではないだろうか?」と思わせる原因となります。その結果、女性社員の労働意欲が失われてしまうのです。
しかし、ポジティブアクションを採用して誰でも努力すれば活躍できるチャンスがあると伝えることで多様性・公平性に満ちた職場が作れます。
・女性社員の労働意欲を上げられる
出典元:『男女共同参画白書令和3年版』
近年は新型コロナウイルス感染拡大など不測の事態で日本経済は停滞しています。パートナーの収入が減り物価が上昇する中で、共働きを選択する世帯が増えています。
男女共同参画局『男女共同参画白書令和3年版』によると、2021年度の共働き世帯は1,240万世帯。全体の68.4%が共働き世帯となりました。女性の中には「世帯収入で生活する自信がないため、自分が働いて収入を増やしたい」という方もいるでしょう。
しかし、「男性社会で女性は認められにくいのではないか?」と仕事に対して諦めている女性も多いです。ポジティブアクションを促進すれば、このような女性の労働意欲を上げられて男女の賃金格差を失くすことができます。
・イノベーションを起こせる
性別や世代が同じ社員を集めてチームを構成すると考え方が固執してしまい、イノベーションが起きにくくなります。このような問題は、ポジティブアクションを推進して多様性を確保することで解決できます。
性別や世代が異なる社員を集めてチームを構成すれば、各自の着眼点で意見が出てくるため、さまざまなアイデアが得やすくなるのです。その結果、新サービスや新商品が開発しやすくなります。
・行政から評価が得られる
男女格差がなく、誰でも努力すれば成果が得られる職場を作れば企業イメージが上がります。
なぜなら、国際サミットで採択された世界共通の目標SDGsの「ジェンダー平等を実現しよう」の取り組みにも繋がるためです。SDGsに取り組めば、行政から評価が得られてESG投資(環境・社会・企業統治に配慮している企業を重視・選別して行なう投資)が受けやすくなるため資金調達しやすくなります。
・助成金がもらえる
女性が長く働き続けられる職場づくりやスキルアップのための研修を行えば、ポジティブアクション能力アップ助成金が受け取れます。中小企業の場合は30万円、上場企業の場合は15万円の助成金を受け取りながら、女性社員の育成ができます。
◆ポジティブアクションのデメリット
ポジティブアクション推進方法に気をつけなければ、男性社員が不満を抱いてしまいます。なぜなら、管理職の男女比を7:3にすると決めると、実力ではなく性別が優遇されてしまうと不信感を与えてしまい、男性社員の労働意欲が低下してしまうためです。このような問題が起きないように、職場で性差別なく、各社員の努力を正当に評価する必要があります。
◆ポジティブアクションに取り組む際の流れ
ポジティブアクションに取り組む際の流れは、以下の通りになります。
- 経営層が意思決定する
- ポジティブアクション推進室をつくる
- 職場の課題を洗い出す
- ポジティブアクションの目標を設定する
- 施策を実行する
- 施策の効果・検証をする
ここでは各手順について詳しく解説します。
・経営層が意思決定する
まずは、経営者層がポジティブアクションを推進していくと意思決定しましょう。なぜなら、ポジティブアクション推進のため人事制度を見直したり、組織改革したりしなければいけないためです。
人事制度の見直しでは労力がかかり、組織改革する上では従業員に不満を持たれてしまうかもしれません。このような場合でも、ポジティブアクションが経営戦略になると認識して取り組む覚悟が求められます。そのため、ポジティブアクションを推進していくと決め、方針を明確に打ち出すようにしましょう。
・ポジティブアクション推進の体制をつくる
次にポジティブアクションを推進するための体制を作ります。
- 人事部門が中心となり各部署のリーダーと横断的に進める
- ポジティブアクション推進委員会を設置して労働組合と推進する
- 各部署のリーダーが女性プロジェクトチームを発足する
上記のように体制づくりにはさまざまな方法があるため、自社に見合うものを選びましょう。
・職場の課題を洗い出す
次に職場が抱えている課題を洗い出していきます。職場の課題を洗い出すために、定量調査と定性調査を行いましょう。定量調査では「部署・職種別の男女比」「女性管理職の割合」「出産や育児による離職率」を分析していきます。
定性調査では女性社員がキャリアに対する不安を抱えていないかを聞き出します。定量調査と定性調査は社員のホンネを聞き出すことが大切です。正確な調査データを取得して、分析結果から認識のズレを把握していきましょう。
・ポジティブアクションの目標を設定する
職場の課題を洗い出せたら、「誰が」「いつまでに」「何を取り組むか」を決めていきます。ポジティブアクションの目標を設定する場合は、客観的に評価できるように具体的な数値を用いるようにしましょう。
例えば「出産、育児に伴う女性社員の離職率を50%低下させる」と目標を掲げて、そのために何をすべきか計画を立てていきます。
・施策を実行して効果検証する
ポジティブアクション計画に沿って施策を実行していきます。例えば、出産、育児に伴う女性社員の離職率を50%低下させるという目標を達成するためには、育児休暇が取得しやすい職場づくりを醸成しなければいけません。
育児休暇が取得しやすくなるように、他の人で業務が回せるなど柔軟な体制づくりが必要です。このような施策を実行した後に効果検証して結果を周知しましょう。
◆ポジティブアクションの取り組み例
男女の性差別がなく誰でも努力すれば評価される公平な職場づくりをするためには、以下のような取り組みが必要です。
- 女性社員を積極的に採用する
- 女性社員の職域を拡大する
- 女性管理職の登用率を上げる
- 育児と仕事を両立できる環境を整備する
ここでは、各施策について詳しく解説します。
・女性社員を積極的に採用する
部門や職種で女性比率が低い場合は、女性社員を積極的に採用することで格差が埋められます。女性社員を積極的に採用する方法には、以下のようなものがあります。
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一般的に性別を選考基準にすることは法律では禁止されています。しかし、募集する職種の女性比率が4割以下の場合は「女性歓迎」と求人票に記載できます。
・女性社員の職域を拡大する
女性社員が能力を生かして幅広い仕事ができるように職場環境を整備してあげると、意欲的に働いてもらえるようになります。女性社員の職域を拡大する方法には、以下のようなものがあります。
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・女性管理職の登用率を上げる
女性管理職の登用率を上げれば、性差別なく誰でも平等に評価される職場と認識してもらえるようになります。女性管理職の登用率を上げる方法には、以下のようなものがあります。
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・育児と仕事を両立できる就業体制を整備する
育児と仕事を両立できる就業体制を整備すれば、女性に長く働いてもらえるようになります。育児と仕事を両立できる就業体制の整備方法には、以下のようなものがあります。
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◆ポジティブアクションに取り組む企業事例
出典元:『株式会社資生堂』
株式会社資生堂は化粧品の製造や販売をしており、国内シェア1位を獲得している会社です。同社は労働人口が減少する中で、人材をフル活用するために男女共同参画の職場づくりを整備しています。
また、化粧品の企画に女性の感性や価値観を反映するために、女性を積極的に採用しています。同社のポジティブアクションの具体的な取り組み内容は以下の通りです。
- 男女共同参画の概念を社内に浸透させる
- 女性リーダーの育成や女性リーダーの登用をする
- ワークライフバランスの実現
上記のような取り組みで、出産や育児で離職する女性がいなくなり、勤続年数は男女差がなくなりつつあります。また、男性も育児休暇を取得しており、性別による格差をなくすことで1人1人がイキイキと働ける職場を実現します。
◆まとめ
企業がポジティブアクションを推進すると、育児と仕事を両立させたいという意欲的な女性を採用できるようになります。また、人事評価を公平なものにして昇格・昇進の機会を与えれば、社員の労働意欲を高められます。
しかし、ポジティブアクションの意味を把握し間違えて推進すると「ポジティブアクションで女性が優遇されている」と男性社員に不満を抱かせてしまうため注意してください。
この記事では、ポジティブアクションの推進方法を分かりやすく解説しました。ぜひ、この記事を参考にしながら、ポジティブアクションに取り組んでみてください。
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