従業員の退職理由として「介護離職」がありますが、対策しなければ大きな損失を被ることになります。介護離職とは何なのでしょうか?どのように介護離職を防止すれば良いのでしょうか?今回は介護離職について詳しく解説します。
この記事を読めば、なぜ取り組む必要があるのか、どのように取り組むかまで理解できるようになるため、ぜひ参考にしてみてください。
目次
◆介護離職とは
介護離職とは仕事と介護の両立が難しくなり職から離れることをいいます。
介護には休みがなく「着替え」「食事の補助」「トイレの介助」「通院」をしなければいけません。昼間はフルタイムで働き、帰宅後は身内の介護を行う状況は、前向きな人でも気が滅入るものです。その結果、仕事と介護の両立ができなくなり離職してしまうのです。
介護者で多い40代、50代の中堅社員が退職して、企業は損失を被らないように介護離職を防止しましょう。
◆介護離職の実態
介護離職について説明しましたが、どれぐらいの人が仕事と介護の両立に悩んでいるのでしょうか?次に介護離職の実態をご紹介します。
・介護離職した人数は約9.5万人
厚生労働省『雇用動向調査(2021年)』によると、介護離職した人は9.5万人と発表されています。男性は約2.4万人、女性は約7.1万人で男性より女性の方が介護離職者が多いです。
介護離職に至る理由は「介護と仕事の両立が体力的に難しい」「介護の終わりが読めずに見通しが困難だった」などがあげられます。
・仕事と介護の両立が難しさで離職した人は約6割
厚生労働省『平成24(2012)年度仕事と介護の両立に関する実態把握のための調査研究事業報告書』によると、介護離職の原因として「仕事と介護の両立が難しい職場だった」と回答した人は全体の6割を占めていました。
次に「自分の心身の健康が悪化したため」「介護に専念したかったため」などの回答が並びます。このような結果から、勤務先が両立できる環境を整備するか否かが離職に影響することが分かります。そのため、従業員が仕事と介護の両立ができるように支援するようにしましょう。
・介護離職者のうち再就職できた割合は約3割
介護離職で職場は離れてしまうと、その後に再就職できる確率は低下してしまいます。大和総研『介護離職の現状と課題』によると介護離職者の再就職割合、40代が53%、50代が38%、60代が18%と年齢が上がるほど再就職が難しくなってしまうのです。
また、正社員に復帰できる方は少なく、多くが非正規社員に転じてしまいます。従業員の将来を考え、将来的に困らないようにサポートしてあげましょう。
◆介護離職を放置するリスク
企業が介護離職を放置すると、次のようなリスクを招きます。
・中堅社員の離職
親の介護が必要になるのは40代・50代が多いです。この世代は部長や課長などで働く中堅社員が多く社内業務を熟知しています。勤続年数が長く会社の方針や業務内容を熟知している中堅社員の代わりになる人を探すのは難しく、介護離職されると大きな損失を被ります。
部長や課長など役割を担う中堅社員が離職すると業務が停滞する場合も多いです。このようなトラブルを防止するために、仕事と介護を両立できる環境を整える必要があります。
・各従業員の負担の増加
業務を熟知して組織を牽引する中堅社員が離職した場合、その業務を誰かが引き継ぐことになります。会社に応じては中堅社員の業務を引き継げる人がいないという状況に追い込まれたり、複数名で対処しなければいけなかったりする場合があります。
職場の従業員は「中堅社員の業務が割り振られてキツイ…」と大きな負担に感じてしまうでしょう。業務の負担が増えて、ストレスが溜まり、職場がギスギスしてしまう恐れもあります。
・従業員エンゲージメントの低下
中堅社員が介護離職すると従業員のエンゲージメントが低下を招きます。例えば、中堅社員の業務を引き継げるような人材がいなければ「会社の体制はどうなるのだろうか…?」と不安を抱いてしまいます。
また、業務が割り振られて負担が重くなると「業務過多できつい…」と悩みを抱えてしまうでしょう。業務が増えたのに給与が上がらなければ不満が溜まります。このような悪循環で従業員が続々と退職してしまうという事態にもなりかねません。
さらに、中長期で働くビジョンが描けなければ不安を感じてしまいます。そのため、仕事と介護を両立しながら働ける環境を用意してあげましょう。
◆介護離職を防止する手順
介護離職を防止する手順は以下の通りです。
- 自社の状況を把握する
- 介護休暇に関する情報を提供する
- 介護の準備を支援する
- 人事制度や職場環境を見直す
ここでは、それぞれの手順について詳しく解説します。
・自社の状況を把握する
まずは、従業員が仕事と介護の両立に関して不安や疑問を感じていないかを調査します。以下の内容を調査することで、職場に介護の相談できると認識してもらいます。
調査項目
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・介護に関する情報を提供する
次に従業員に対して介護に関する情報を提供していきます。情報提供の目的は、介護に対する理解を深めてもらい、仕事と介護を両立できる職場風土を醸成することです。介護に関する情報を提供しながら、以下の内容も伝えておきましょう。
- 会社として仕事と介護の両立を支援する方針だと伝える
- 介護と仕事を両立するための各種制度を教える
- 介護と仕事を両立する場合の働き方の事例を提示する
- 介護を迎える人向けの相談窓口を設置して個別相談に乗ることを伝える
・介護の事前準備を促す
次に従業員に介護の事前準備を促しましょう。その理由は、親の介護が突然必要になるためです。突然、親の介護をしなければいけなくなると、心身的に大きな負担となります。このような負担を抑えるためにも、親の介護などライフプランについて考える機会を与えてあげましょう。その上で、介護保険制度や介護休業制度、両立支援制度などを学べる場を提供します。
介護が必要になる前に制度や働き方について理解を深めておけば、親の介護の時に落ち着いて行動していけるようになります。
・人事制度を見直す
次に従業員が仕事と介護の両立ができるように、人事制度や職場環境を見直しておきましょう。
◆介護離職を防止するための対策方法
介護離職を防止する手順をご紹介しましたが、具体的にどのような対策ができるのでしょうか?次に介護離職を防止するための対策方法をご紹介します。
・パンフレットを制作する
介護に関する情報をまとめたパンフレットを配布しておくと、介護離職の防止ができます。なぜなら、介護休暇の取得方法や短時間勤務へ切り替える方法を知らず、職場に介護の相談ができず離職を決断してしまう従業員が多いためです。
介護に関する情報をまとめたパンフレットを渡しておけば、職場に介護の制度があると理解してもらえて不安を取り除いてあげられます。パンフレットを制作する場合は、以下の内容をまとめておくようにしましょう。
- 介護の負担を減らすコツ
- 仕事と介護の両立をする際の働き方の事例
- 介護に関する各種制度
- 介護サービスの案内
- 復職プログラムのお知らせ
- 介護に関する相談窓口のお知らせ
パンフレットを制作する場合は、厚生労働省のパンフレット「仕事と介護 両立のポイント」が参考になります。
・セミナーを開催する
介護は着替えや食事補助やトイレの介助など多岐に渡り、大きな負担となります。そのため、従業員が介護を担うことになった場合、どのように介護と仕事を両立するのかセミナーで解説しておきましょう。
セミナーでは「介護の心構えの重要性」「仕事と介護の両立のポイント」「働き方の見直し」などを伝えて、どのように仕事と介護が両立できる環境を整えてくのか具体的に教えてあげてください。セミナーの内容に悩んだら、厚生労働省が提供する資料「介護で離職しないために仕事と介護の両立セミナー」を参考にすると良いでしょう。
・研修を行う
職場の仲間が仕事と介護の両立をしなければいけなくなったときに、社内全員で助け合える風土を醸成するために研修を行いましょう。
仕事と介護の両立をするために時短勤務や介護休暇をとる場合は、上司や同僚などの周囲のサポートが欠かせません。周囲が介護者に文句を言えば働きにくさを感じてしまいます。そのため、仕事と介護の大変さを理解させ、会社全体でサポートする方針を示しましょう。
・相談窓口を設置する
従業員は親の介護を職場に相談したら迷惑になるのではないかと一人で悩みを抱えがちです。その結果、誰にも介護の相談をせずに離職を選んでしまいます。仕事と介護の両立を選んでも、フルタイムだとキツイと感じることもあるでしょう。
このような場合も、その都度、働き方を見直す相談ができる窓口を設置してあげると安心感を与えられます。外部サービスを利用すれば、24時間相談できる窓口を設置することも可能です。従業員が1人で介護で悩まないように相談窓口を設置してあげましょう。
・メンタルヘルスケアをする
親の介護は体力的にもしんどいですが、親の体が衰退する姿を見ていくため精神的にもしんどいです。物事を前向きに考えられる人でも落ち込むことはあるでしょう。
また、介護は育児とは異なり出口が見えず、いつまで続くか分かりません。介護で周囲に迷惑をかけていると悩み始めると心身が擦り減っていきます。そのため、介護に携わっている従業員のメンタルケアを行うようにしましょう。
・福利厚生サービスを用意する
介護に必要な費用は想像以上に高いです。生命保険文化センターの調査結果「介護にかかる年数と費用の内訳」によると約500万円必要になります。
介護離職する人の中には、金銭面の都合で在宅介護を選ぶという方も多いです。このような金銭面の負担を軽減してあげて、介護サービスを利用しやすい状況にしてあげましょう。介護用品の購入費用を支援したり、介護サービス利用時の補助をしたりなど福利厚生を充実すると喜んでもらえます。
・復職支援プログラムを用意する
介護を理由に休職していた労働者は職場復帰に不安を感じるものです。このような不安を払拭して職場に復帰してもらえるように、復職支援プログラムを用意しておきましょう。また、職場復帰後のフォローアップを欠かさず行うことで安心して働いてもらえるようになります。
◆介護離職防止は補助金を利用しよう!
介護離職を防止する方法をご紹介しましたが、取り組むと助成金がもらえます。助成金の支給額は28.5万円(または36万円)です。どのような補助金がもらえるかを把握した上で、賢く対策を行いましょう。
・両立支援等助成金(介護休業)
両立支援助成金(介護休業)とは家族の介護のために休業する人が出た場合、また職場復帰した人がいる場合にもらえる助成金です。以下の流れで申請します。
- 家族の要介護が必要である報告を受ける
- 介護休業する前に上司と面談して介護支援プランを策定する
- 介護支援プランに基づいて業務を整理、引継ぎをする
- 介護休業を終えたら職場復帰した1か月内に面談を行う
- 面談結果を介護支援プランにまとめる
- 助成金を申請する
・両立支援等助成金(介護両立支援制度)
両立支援等助成金(介護両立支援制度)は、仕事と介護を両立するために制度を利用する人が出た場合にもらえる助成金です。以下の流れで申請します。
- 就業規則等に介護離職を防止に努めることを周知する
- 介護者となる従業員と面談をして介護支援プランを作成する
- 介護支援プランに沿った業務体制を整える
- 介護者が制度を活用して働き方を変える
- 介護者が仕事と介護の両立をしながら働く
- 継続雇用1ヵ月後に補助金を申請する
◆まとめ
介護を理由に仕事を離れる人は多くいるため、他人事ではありません。中堅社員が介護離職してしまうと大きな損失を被ることになります。そのため、介護離職が発生しないように、事前準備として介護に関する理解を深めるように促しましょう。
また、介護者が出た場合に仕事と介護を両立できる環境を整備しておくことが大切です。この記事では、企業側ができる介護離職の対策方法をご紹介しました。ぜひ、この記事を参考に介護離職の対策をしてみてください。
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