女性、シニア、LGBTなど多様な人を受け入れるダイバーシティ&インクルージョンを推進する企業が増えてきています。そのため、LGBT層も働きやすくなりましたが中小企業では浸透していません。
しかし、中小企業もLGBT雇用の施策をしなければ、優秀な人材が離職してしまいます。LGBT雇用の施策をすると、どのような効果が見込めるのでしょうか?どのように取り組めば良いのでしょうか?今回は、LGBT雇用の実態について詳しく解説します。
目次
◆ LGBT雇用の実態
まずはLGBT雇用の実態について解説します。
・ LGBT人口の割合は約8.9%
出典元:『株式会社電通 LGBT調査2018』
株式会社電通の独自調査「LGBT調査2018」によると、LGBT層に該当する人は8.9%います。
セクシュアリティを「カラダの性」「ココロの性」「スキになる性」の3つの組み合わせで分類し、「レズビアン」「ゲイ」「バイセクシャル」「トランスジェンダー」に該当する人がLGBT層です。
日本人の血液型でAB型の割合は約10%と言われています。AB型の血液型の人に出会った経験があると思いますが、LGBT層に該当する人は想像以上に多く存在します。
・ LGBTをカミングアウトできない人は50.7%
出典元:『株式会社電通 LGBT調査2018』
同調査によると、職場の同僚や上司にLGBTをカミングアウトすることに抵抗を持っている人は50.7%います。LGBTだとカミングアウトできる人は21.1%。この調査結果から、大半の人がLGBTだとカミングアウトすることに抵抗を持っていることが分かります。
しかし、勤務している職場に多様性を受け入れる体制が整っていないと多くの人が回答しており、LGBTだとカミングアウトできない職場が原因になっている恐れもあります。
・ LGBT施策に取り組む企業は約10.9%
出典元:『厚生労働省 職場におけるダイバーシティ推進事業_事例集』
厚生労働省の独自調査によると、LGBT層が快適に働ける職場にするための施策があると回答した企業は約10.9%です。
従業員規模別でみると、従業員数1,000人以上の大企業では4割超がLGBT施策を実施しています。その一方で、従業員数1,000人以下の中小企業ではLGBT施策があまり行われていません。とくに、従業員数が99人以下の企業では1割にも満たず、施策が難しいことが分かります。
・ [補足]LGBT雇用の施策は離職防止につながる
LGBTの雇用に関して自社には関係ないと他人事では済まされません。その理由は、LGBT層は11人に1人と身近に存在するためです。本当はLGBTだとカミングアウトをしたい従業員もいるかもしれません。なぜなら、LGBTを隠しながら働くことは想像以上にストレスとなるためです。
LGBTをカミングアウトできずに我慢して、優秀な社員が離職してしまう恐れがあります。そのため、LGBT層も働きやすい職場にする必要があるのです。
◆ LGBT雇用の施策に取り組むメリット
LGBT雇用の施策に取り組むと、以下のようなメリットがあります。
- 優秀な人材を採用できる
- 従業員の離職を防止できる
- 企業イメージを上げられる
ここでは、各メリットについて詳しく解説します。
・ 優秀な人材を採用できる
LGBT雇用の施策に取り組むと優秀な人材を採用できます。その理由は、LGBT雇用に関する施策を行うことで、より働きやすく「選ばれる企業」になるためです。LGBT雇用の施策に取り組む企業は、大企業で約4割、中小企業で約1割のため、施策に取り組めばLGBT層に注目してもらえます。
パーソル総合研究所『労働市場の未来推計 2030』によると、2030年に人手は644万人不足します。そのため、求人募集しても優秀な人材が採用しにくくなります。したがって、自社の魅力を高めるために施策に取り組むのが必要となるのです。
・ 従業員の離職を防止できる
層とカミングアウトする必要はないのではないか?」と問題提起されることもありますが、生まれつきの属性であるセクシュアリティを隠し続けることは相当ストレスが溜まります。
職場でLGBT層であることがバレないように隠しておこうと頭脳のリソースが割かれている状態でも、生産性の低下を招いてしまいます。また、ストレスが過度に溜まると、退職理由を述べずに離職してしまうでしょう。このような従業員の離職も、LGBT雇用の施策で防止できます。
・ 企業イメージが上がる
LGBT雇用の施策に取り組めば、企業イメージが上がります。その理由は、2015年の国連サミットで採択された持続可能な開発目標SDGsの取り組みの1つに「ジェンダー平等を実現しよう」が掲げられているためです。
SDGsの目標を達成すれば、より良い社会のために取り組んでいる企業だとイメージアップができます。新たな取引先が開拓できたり、採用しやすくなったりなどの恩恵が受けられます。
・ LGBT雇用の施策に取り組むデメリット
LGBT雇用の施策に取り組むとメリットだけでなく、以下のようなデメリットがあります。
- LGBT関連の知識が必要になる
- 社内制度を見直す必要がある
- 従業員の協力・理解が必要である
ここでは、各デメリットについて詳しく解説します。
・ LGBT関連の知識が必要になる
LGBT層がストレスを感じずに心地よく働ける職場づくりには、LGBT関連の知識が必要になります。
例えば、LGBT層は「制服への着替え」「使用したいトイレ」「異性向けの会話」などで強いストレスを感じてしまうことがあります。これらについて理解を深めなければ、LGBT層が快適に働ける職場づくりはできません。そのため、LGBT層に関する知識を収集する必要があります。
◆ 社内制度を見直す必要がある
LGBT雇用の施策をするために、社内制度を見直す必要があります。とくに、社内規定は労務士と相談して決めていかなければいけません。
[社内制度の見直し 例]
- 社内規定でLGBT差別禁止を明文化する
- 社内規定にLGBT差別をした場合の懲戒規定を定める
- ハラスメントが起きたときに対応するチーム体制を整える
- ハラスメント相談窓口を設置する
- 福利厚生などもジェンダーレスのものに切り替える
・ 従業員の協力・理解が必要である
LGBT層が働きやすい職場づくりを実現するためには、従業員の協力が必要です。従業員にLGBTに関する理解を深めてもらい、アライ(LGBTの理解者/LGBTの支援者)になってもらいます。
また、LGBT層が上司や同僚、部下に気軽に相談できるようにアライであることを証明するシールを身に着けてもらいます。アライは、LGBT層にとって、職場で何か困ったときに頼れる心強い存在です。そのため、従業員の協力、必要を仰がなければいけません。
・ LGBT雇用の施策のための取り組みリスト
LGBT層も含めた多様な人材が活躍できる職場の整備としての取り組みには、以下のようなものがあります。
[取り組みリスト]
- 就業規則に性的指向や性自認に関する差別禁止を明記する
- LGBTに関連する研修会を定期的に実施して周知させる
- ハラスメント相談窓口を設ける
- 面接官向けのガイドラインを作成する
- 採用面接でLGBTとカウングアウトを受けた際の対応方法を決める
- 異性、同性を問わず事実婚をした社員に対して結婚休暇、結婚祝い金を付与する
- 制服をパンツスタイルにする
- 性自認に基づいて希望するトイレを使って良いことにする
- 健康診断の対応は個別対応にする
- 性的マイノリティを支援することを表明するシールを配布する
◆ LGBT雇用の施策で評価されている企業事例
LGBT雇用の施策のメリット・デメリットをご紹介しましたが、実際に取り組んでいる企業では、どのような施策をしているのでしょうか?ここでは、LGBT雇用の施策で評価されている企業事例をご紹介します。
◆ 大和ハウス工業株式会社
出典元:『大和ハウス鉱業株式会社 公式サイト』大和ハウス工業株式会社は、分譲住宅など販売している住宅総合メーカーです。同社では、女性やシニア、LGBTなど多様な人が安心して働ける職場をつくるために「ダイバーシティ&インクルージョン」を推進しています。
人事制度面では、福利厚生や住居補助など同性パートナーを配偶者とみなした規定を策定しました。また、社内にジェンダーに配慮したトイレや更衣室を設置しました。
このようなLGBT層が働きやすい職場環境を整備し、LGBTQ+の取り組みを評価する「PRIDE指標2022」で「ゴールド」に認定されています。そのため、LGBT雇用の施策の参考になるでしょう。
・ 株式会社メルカリ
出典元:『株式会社メルカリ 公式サイト』株式会社メルカリは、フリマアプリ「メルカリ」を運営している会社です。同社は多様性の受容を推進しており、LGBT雇用の施策として社内研修「Mercari Pride E-Learning」を実施。Mercari Pride E-Learningでは、LGBTに関連する基礎知識をはじめ、なぜ差別禁止が必要なのかまで理解できる研修内容となっています。そのため、研修を受講した社員から、LGBT雇用の施策に同意を得やすくなっています。
また、多様性の受容を推進するための社内コミュニティ「Pride@Mercari」を設立するなど、ダイバーシティ&インクルージョンの参考となる企業です。
・ SGホールディングス株式会社
出典元:『SGホールディングス株式会社 公式サイト
』
SGホールディングス株式会社は、佐川急便をメイン事業としている会社です。同社はLGBT、外国籍従業員、障碍者エンジニア人材など、すべての従業員の活躍をサポートするため、ダイバーシティ&インクルージョンを推進する取り組みをしています。LGBT分野においては、2020年に経営層や管理職、人事担当者向けにLGBTへの理解を深めるセミナーを開催。2021年には職場で望まれる対応を周知。2022年には、社外の人にもLGBTに理解を示す態度をとり啓蒙活動をしてきました。
それだけでなく、LGBT層の上司、同僚、部下、人事担当者などが悩んだときに相談できる「LGBTに関する専用相談窓口」などを設置しています。このような取り組みで、LGBTQ+の取り組みを評価する「PRIDE指標2022」で2年連続「シルバー」に認定されています。
◆ まとめ
LGBT雇用は他人事ではありません。国内の11名に1名がLGBT層に該当するため、本人がカミングアウトしていないだけで身近に存在します。
LGBT雇用の施策をしなければ、職場の人にLGBTだとバレないようにしている優秀な人材が離職してしまうかもしれません。そのため、多様な人が働きやすい職場をつくり、人が集まる会社にしていく必要があります。
この記事では、LGBT雇用の施策に取り組むメリット・デメリットをご紹介しました。ぜひ、これを機会にLGBT雇用の施策に取り組んでみてください。
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