人材を確保するためにEVP(Employee Value Proposition)を意識して、人事施策を考える必要が出てきました。その理由は、就職・転職市場は売り手市場で人材採用が難しくなってきたためです。
人材確保に影響するEVPとは何なのでしょうか?どのような手順で、施策を考えていけば良いのでしょうか?今回はEVPについて解説します。
目次
◆EVPとは
EVP(Employee Value Proposition)を直訳すると「従業員 価値提案」となります。つまり、企業が従業員に対してどの程度の給料を提供できるか、ライフワークバランスを保てる労働環境を提供できるのか考えることをいいます。
終身雇用制度や年功序列制度は崩壊しつつあり、人材の流動化が激しくなってきました。このような時代でも、自社で長く働いてもらったり優秀な人材を獲得したりするために、EVPについて考える必要があります。
◆EVPの種類
企業が従業員に対して提供できるEVPには、以下のようなものがあります。
・給与
財務面を考慮して従業員の給料を決める企業が多いですが、モチベーションと直結するものです。そのため、仕事の成果やポジションに応じた給与を支払うようにしましょう。大切なことは、従業員が妥当な金額だと思えることです。
職務給は職務の難易度に合わせて妥当な金額を決めましょう。能力給はスキルの高さを合わせて妥当な金額を決めます。また、賞与を支給する場合は、業績に応じた分を払うことが大切です。
・福利厚生
福利厚生は住宅手当や食事手当の他、特別休暇の取得など幅広いものを指します。福利厚生を充実させると従業員の健康維持がしやすくなります。
例えば、誰にも気兼ねなく有給休暇を取得できれば英気を養うことができるでしょう。また、スポーツ施設が利用できれば体力を上げていけます。このように、従業員の健康を維持するために福利厚生を充実させる企業が増えてきました。
・仕事内容
従業員の能力やスキルを活かせる仕事内容を与えることも大切です。なぜなら、仕事を通じて達成感や成長を体験できると満足度が上がるためです。
従業員の中には、将来の理想の働き方を掲げ、それを叶えたいと思っている人もいます。このような人に対して、キャリア開発支援をしてあげることも企業の役割となってきています。
・ワークライフバランス
従業員の中には、仕事と生活のバランスが取れた状態を望む人も多くいます。2007年12月には内閣府が「仕事と生活の調和憲章(ワークライフバランス)」を掲げて、以下の3つが叶えられる職場環境づくりの推進をしました。
- 就労による経済的自立ができること
- 健康で豊かな生活のための時間が確保できること
- 多様な働き方、生き方が選択できること
多くの企業がテレワーク、時短勤務など多様な働き方を実現しているため、従業員に対する価値提供として考える必要が出てきました。
・相談窓口
従業員が仕事における悩みを相談できるように相談窓口を設けましょう。なぜなら、仕事の悩みを抱えていても上司や同僚に相談できない従業員もいるためです。
職場の悩みには人間関係による悩みもあります。このような悩みは、職場の人には話しにくいでしょう。そのため、産業カウンセラーに話せる相談窓口を設けてあげましょう。このような相談窓口を設置すると従業員は安心できます。
◆EVPを考えるメリット
EVPを考えると、次のようなメリットがあります。
・従業員満足度の向上
企業が従業員に対してどの程度の給料を提供できるか、ライフワークバランスを保てる労働環境を提供できるのか考えると従業員満足度を向上していけます。なぜなら、従業員を大切にしてくれる会社だと信頼関係を構築できるためです。
従業員は会社に貢献したいと意欲的に働いてくれるようになるため、生産性も上がっていきます。また、長く活躍してもらえて離職防止の効果も見込めます。
・優秀な人材の確保
満足できる給料や働きやすい労働環境など、従業員が働きたいと思える職場環境を整備すれば優秀な人材が採用しやすくなります。なぜなら、競合他社よりも労働環境の条件が良くなるためです。
従業員満足度が高い職場は、会社説明会や会社見学会で伝わるものです。また、面接官からも伝わります。その結果「この会社を選べば、理想の働き方が実現できる」と思ってもらえるようになり、優秀な人材が採用できるのです。
・企業のイメージアップ
従業員満足度が高い職場で働いている従業員は、意欲的に仕事に取り組んでいます。そのため、取引先やお客様などステークホルダーに良い印象を持ってもらいやすくなります。
企業が従業員のために働きやすい職場を提供するとイメージアップにつながるのです。企業のイメージアップができれば、ビジネス機会が得られやすくなります。
◆EVPを考えるデメリット
EVPを考えると従業員満足度の向上や企業のイメージアップの効果が見込めますが、各施策には費用がかかります。
従業員が望んでいる施策とは異なる施策を提供すると費用が無駄になってしまう恐れがあります。そのため、EVP施策に取り組む場合は、正しい手順を覚えておきましょう。
◆EVP施策に取り組む流れ
EVP施策に取り組む場合の流れは以下の通りです。
- 自社を分析する
- アンケート調査を行う
- EVP施策を策定する
- EVP施策について周知する
- EVP施策の効果を検証する
ここでは、それぞれの手順について詳しく解説します。
・自社を分析する
最初に自社の価値について考えていきます。
「給与」「福利厚生」「仕事内容」「ワークライフバランス」「相談窓口」に対して、従業員に満足してもらえているかを分析します。その際に、競合他社と比較して自社は魅力があるかどうかを確認しておくと優位性を高めていくことができます。
・アンケート調査を行う
自社の分析は大切ですが、分析結果のみで施策を考えてしまうと、従業員に喜んでもらえる施策にはなりません。従業員満足度を上げるために、従業員アンケート調査を実施して、会社にどのようなことを望んでいるかを聞き出しましょう。
従業員アンケートは各項目を5段階評価してもらってください。このような定量データを集計しておくと、どの施策から優先して行えば良いかが分かるようになります。
・EVP施策を策定する
従業員アンケート調査の結果を参考にしながら、職場改善をしていきます。職場改善するためのリソースは限られているため、優先順位の高いものから取り組んでいきましょう。
どの施策に取り組むかを決めたら運用体制を決めていきます。
・EVP施策について周知する
EVPの施策を策定できたら、従業員に活用してもらうために周知します。全体会議で説明するだけでなく、自社サイトや求人媒体、SNS、採用研修、会社説明会の資料など、さまざまな場所で知らせることが大切です。
・EVP施策の効果測定をする
EVP施策を実施した後は、効果測定をしてください。効果が見込めない施策はコストの無駄となるため、他の施策にコストをかけるようにしましょう。
どのような施策が効果的かをこまめに検証することで、満足度の高い職場に改善していけます。
◆EVP施策を展開する企業事例
従業員満足度が高い企業は、どのようなEVP施策に取り組んでいるのでしょうか?ここでは、EVP施策を展開する企業事例をご紹介します。
・ソニー株式会社
出典元:『ソニー株式会社』
ソニー株式会社はエレクトロニクス・プロダクツ&ソリューションを提供している会社です。同社はステークホルダーの中に「従業員」を含んでいます。そして、従業員に対して定期的に意識調査を実施して、多様な人材が働きやすいと思える職場を中長期で作ることを目指すと目標を掲げています。
具体的な取り組みを説明すると、従業員のキャリア開発を目的とした「Self Development Program」に、近年注目が集まっているデータ分析領域を学べるプログラムが追加しました。
また、DXやAIなどのテクノロジーに触れ実践に活かせる機会なども設けています。それだけでなく、男女関係なく活躍できる職場づくりにも努めています。このように従業員の声を聞いて職場づくりに反映して満足度を上げているのです。
・株式会社サイバーエージェント
出典元:『株式会社サイバーエージェント』
株式会社サイバーエージェントは、メディア事業やインターネット広告事業を展開している会社です。同社は従業員の能力を最大限に活かし、自分の存在意義を感じられることが事業拡大には必要だと捉え、さまざまな人事施策に取り組んできました。
その結果「働きがいがある」と回答した従業員が87%にものぼります。
同社では適材適所の人事配置を実現する組織「キャリアエージェント」が機能しており、各従業員のコンディションを把握するツール「GEPPO」や社内異動公募制度「キャリチャレ」などの運用で従業員の能力を引き出しています。
GEPPOの回答率は100%。高い回答率を維持できている理由は、悩みや要望を伝えれば、必ず真摯に対応してくれると思われているためです。このように、打てば響く状態を作ることで、従業員満足度の高い職場を実現しています。
・中外製薬
出典元:『中外製薬株式会社』
中外製薬株式会社は、日本の大手医薬品メーカーです。同社は「人財こそが最大の資産」と捉えており、人財マネジメントを重要な経営テーマに捉えています。
若手社員にも責任ある仕事を任せる能力を最大限発揮できるような環境を整備しています。本当に務めるかと不安を抱える若手社員に対しては、教育をしたりフォローしたりとバックアップが充実していることも大きな特徴です。
それだけではなく、他企業に優秀な人材を取られないように、パイプラインを豊富に持つなど事業の強みを上手く説明して魅了しています。このような取り組みにより、従業員から愛着と信頼を寄せられているのです。
◆まとめ
EVP(Employee Value Proposition)を直訳すると「従業員 価値提案」となります。終身雇用制度や年功序列制度は崩壊しつつあり、人材の流動化が激しくなってきました。
このような時代でも、自社で長く働いてもらったり優秀な人材を獲得したりするために、EVPについて考えていく必要があるのです。この記事では、EVP施策をご紹介しました。この記事を参考にしながらEVP施策に取り組んでみてください。
どのようなEVP施策を立案するときは、従業員のホンネを聞くことが大切です。ぜひ、従業員のホンネを聞きたいという方は、株式会社フォロアスが提供するエグジットインタビューをご利用ください。